【ショートショート】「ねえ、どうか、私を忘れないで」⑥
数日前のことだ。いつものように俺のところに来て、器用に繕い物をしながら小娘は言った。
「ねえ、私、今度殺されるの」
殺される、の意味が分からなくて、俺は少し考えた。それで、初めて小娘と話した時のことを思い出して、勢いよく小娘の方を見た。
小娘は、いつも通りの、何も楽しくない、と言わんばかりの表情で続けた。
「多分、もうこうしてお兄さんと話せることもないと思うから」
「なんで」
「なんで、って。だって、もうずっと前から決まっていたことだから」
私はここから逃げる手段なんて無いし。続けたその声には、悲しみも怒りも無くて、ただ淡々と事実を告げるだけだった。
「ねえ、だから、お兄さん」
そっと囁かれるように言われたその言葉を、俺はきっと、一生忘れられない。
そうして、今日。小娘は、今までに見たことがないような笑顔で崖下へ飛び降りていった。

