【ショートショート】「ねえ、どうか、私を忘れないで」④

ことことことこと2022年5月17日

 今年は去年よりも米も野菜も取れない、どうしたもんか、なんて、やっと大人になった同世代の連中と話していたら、そのうちの一人が言った。水神様がお怒りなんだ、と。俺は、それに内心うんざりしながら相槌を打った。

 俺は、神だなんて、馬鹿らしいと思っていた。何かきっかけがあったわけでもないけれど、でも物心ついた頃にはそう思っていたから、つまるところ俺は根っからの捻くれ者なんだろう。けれど、それについて口にすることはしなかった。そんなことをすれば、俺が村八分にされるのは目に見えていたから。けれど自分に噓をついて同意を返すこともできなくて、毎回曖昧な笑みを浮かべて誤魔化していた。


 それを、あいつは見抜いていた。たかが十のガキがだ。村の仕事の関係で二人きりになった瞬間だった。

「ねえ、お兄さん。ほんとは、水神様なんてどうでもいいんでしょう」

 それを聞いた俺は、ただ、周りに人がいないか、今の言葉を聞かれていないかと、そんなことで頭がいっぱいだった。

「なんで、そんなことが言える」

 少しして、絞り出すように小さな声で言ったら、そいつは珍しくほんの少し笑って言った。

「だって、私そのうち殺されるもの」

ことこと
ことこと