【ショートショート】「ねえ、どうか、私を忘れないで」③
大人達が話していたのは、その家の今後の扱いについてだった。女は体が弱い、自分で食い扶持を稼ぐこともできないんだから、さっさと追い出してしまったらどうだ、とか。娘の方はどうする、とか。それを聞いた俺は、あああいつら追い出されるのか、なんて他人事みたいに思っていたっけ。
けれど、その後話の流れが変わったのが分かった。
だが、あの器量の良い女を手放すのは惜しくないか、と一人が言った。
旦那が死んだんだ、好きにしてしまってもいいだろう、と一人が言った。
ならば、娘はどうする、育てて同じように使うか、と一人が言った。
娘は、ありゃあ目がいかん。あの男そっくりだ、と一人が言った。
なら、そのうち水神様の生贄にでもするか、と一人が言った。
その日、俺はよく眠れなかった。そして、それ以降は大人たちの会話を盗み聞くのをやめた。
代わりに、余所者の家の娘が視界の端にちらつくようになった。そいつは、母親譲りの見た目の良さも相まって、年を重ねるにつれて余計に俺の視界に入り込むようになっていった。





