3分間小説『旅行者』 第2話

nishidamiyako0120nishidamiyako01202022年4月1日

すると、エントランスのすぐそばに男がうつぶせで倒れている。

 

薄汚れた服で、髪はぼさぼさで乱れ、体臭が漂っていた。あれは、ホームレスだったんだろうな。ホームレスは世界中の都市にいる。それ自体は驚くことではない。でも、俺が驚いたのは、その男がばったり倒れて動けずに苦しんでいるのに、誰も助けようとしないところだよ。通行人も、レストランに出入りする客も、そいつが目に入っているはずなのに、誰も気にも留めないんだ。

 

今は冬だろ。身を切るような寒風が吹き付け、彼の体温を奪っていたはずだ。明らかに命の危険が迫っている。早く助けてやらないと、そいつはそのまま死んでしまうだろう。誰だってわかっていたはずだ。なのに、この国の人々は、倒れた男の存在を完全に無視しているんだよ。愕然としたね……。

 

俺は、レストランに予約を入れていたので、仕方なく店に入ったよ。そこは、この国を代表する、いや、この時代を代表するような有名なレストランだったからね。前から楽しみにしていたんだ。

 

食事は、たしかに美味かった。サービスも良かった。でも、表で倒れている男のことを思うと、心から楽しむことはできなかったね。

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