短編小説『心の中』 第7話

「あら。急にどうしたの?変な子ね…」
「いや、子どもの頃。おぶってもらったから。今度は僕がおぶってみたいなと思って」
母は断るわけでもなく、むしろ嬉しそうに応じた。僕が片膝をつくと、母は背中に、ぽんっと乗った。ぐっと踏ん張って背負うと、
「…無理しなくていいのよ」と、母は言った。「なあに、平気だよ」すると、母はもう一度小さな声で言った。「……おんぶのことじゃないの、あなたの人生のことよ」「……」「母さんの期待を、重荷に感じないで。ハジメには、幸せになってもらいたい。でも、それは社会的に成功してほしいということじゃないの。自分の人生を生きて幸せになってほしいの」母はそれだけ言うと、僕の肩に背中をうずめ、そっと身を預けた。母は、僕の苦しみをすべてわかっていたのだ。僕が、父母の期待を背負い込み、重荷に感じていたことを…。一歩、二歩と歩を進めたけど、それ以上の歩みを止めた。僕は、母を背負ったまま、夕日が差し込む窓際に立ち尽くした。畳に落ちた黒い影は、小さな子供を背負う姿にしか見えなかった。