短編小説『心の中』 第4話

nishidamiyako0120nishidamiyako01202022年3月28日


両親はそれを聞いて喜んだに違いない。故郷では、僕がついに作家になったのだと、大きなニュースになったはずだ。僕は上京する時、婚約者を地元に残していた。生活のめどが立たなければ、結婚もできない。しかし、出版が決まったことで、結婚話はとんとん拍子で進んだ。僕も、印税をあてこんで、この機会に結婚を決意した。恩師や友人に「挙式のために故郷に帰る」と連絡した。父が市役所に婚姻届けを出してくれた。地元では盛大な結婚式が準備された。そして、結婚式当日を迎えた――。

 

僕は、本が出版されれば、莫大な印税が入ってくるものだと思っていた。そう思って、毎夜、飲み明かし、出版前にかなりの額のお金を使い果たしていた。が、恐ろしいことに、印税は雀の涙ほどしか入ってこなかった。考えてみれば当たり前のことである。無名の作家の本がいきなり売れるわけがないのである。考えてみればわかるが、考えたくなかったのだ。僕は婚礼のための資金を、まったく用意することができなかった……。

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