短編小説『心の中』 第3話

僕はもうすでに学業についていけなくなっていたのだ。試験でいい点を取るために、カンニングをすることもあった。このままでは留年する恐れがあった。でも「神童」が留年するわけにはいかない。そこで「文学の道に進みたい」という聞こえの良い理由をつけて退学し、留年を回避しようとしたのである。それは、大人たちの期待から逃れるための、自分なりの解決策でもあった。「文学の道に進みたい」はけっして嘘ではなかったが、そのための見通しはまったく立っていなかった。
東京では、作家に近づくために、出版社に就職しようとしたものの、上手くいかなかった。そもそも、学歴がないのだから当然と言えば当然である。ならば、「自分の作品集を出版して、作家として認めてもらおう」と思ったが、どこの馬の骨かもわからない人物の本を出版してくれるところなどありはしない、しかたなく、僕はお金をかき集め、ほとんど自費出版のような形で詩集を発表した。そして、実家に出版の報告をした。