短編小説『心の中』 第8話

長年、僕を苦しめていた重荷は、もはや消えていた。そして、心が軽くなるのを感じた。僕の目からは、とめどなく涙があふれてきた。
――ある高校の職員室。
高校教師、渡部は困惑していた。彼が手に持っているのは、その日実施した国語の定期試験の、ある生徒の解答用紙。自分の問題文に不備があったことがいけないのだろうか――。
【問題】
「たはむれに母を背負いて そのあまり軽さに泣きて 三歩あゆまず」
この短歌の作者名と、この歌を詠んだ作者の心情を答えよ。
この問題は、渡部自身が作ったものだったが、「心情」のほうの問いに「何文字で答えよ」という指示を書き忘れていたのだ。解答欄は幅二センチ×高さ二十センチほどなので、ほとんどの生徒は、その解答欄に収まるよう、長くてもせいぜい五十文字程度で回答を記していた。しかし、ある一人の生徒が、解答欄をはみ出し、答案用紙の裏面まで使って長文の解答を書いてきた。それは作者の心情をつづったものなのだが、それが、作者の幼少期から語る「小説」のような形式になっていたのである。



