短編小説『心の中』 第1話

幼い頃の僕は、地元で「神童」ともてはやされていた。読み書き、計算はもちろん、どんな勉強もクラスの誰よりもできた。性格も良いと言われていた。まじめで優しく、友達想い。先生の言うことをきちんと守ったし、先生に怒られたことなんて一度だってない。家に帰れば、勉強の合間に家事を手伝った。親を困らせたこともない。大人たちはそんな僕を見て「ハジメ君は優秀ね。いつか大物になるわ」「文学の才能があるから、偉大な作家になるに違いない」と、期待をかけた。両親も、僕の将来にさぞ期待していたに違いない。それが分かっているからこそ、僕は期待を裏切らないように努力した。そして、有名中学校に好成績で入学した。でも、僕はわかっていた。僕はそんな「神童」じゃないことを。僕は臆病で、他人の顔色を窺って、他人から嫌われないよう、振る舞っていただけ。相手が何をしてほしいかがわかるから、相手が喜ぶような振る舞いをしていただけなんだ。勉強ができたというのも、頭が良かったわけではない。僕は人よりも少し要領がよかっただけなんだ。


