5分間小説『冷静な人』 第2話

交際の言葉は、サヤカからだったが、プロポーズの言葉はコウジからだった。二人で暮らし始めたのは、郊外に建つ小さな一軒家だ。
「子どもは、二人欲しいな。男の子と女の子が一人ずつだと理想的かもね。でも、まずは元気に生まれてきてくれることだね。家族みんなで、幸せになりたいな」と、コウジは言った。サヤカは、この人となら「幸せな人生を送れるに違いない」と思った。
しかし、結婚して間もなく、サヤカの胸に小さな違和感が生まれた。コウジは、家事を基本的にサヤカに任せていた。それは、コウジらしい合理的な役割分担で、彼が家事をサヤカに押し付けていたわけでも、サヤカがそれを不満に思っていたわけでもない。「違和感」の原因は別なところにあった。
「――それでね、隣の奥さん、旦那さんと大喧嘩しちゃったんだって。結婚記念日を忘れて友達と飲みに行かれたら、それは怒って当然だよね」
ある日、雑談の中で、サヤカがそんなことを話すと、コウジは牛乳をコップに注ぎながら、表情を動かすことなく答えた。


