3分間小説:第6話『天秤』

その被告人は、殺人事件の犯人として裁判にかけられていた。
現行犯逮捕であり、犯人であることは間違いなかった。裁判で被告人が動機として語ったのは、自身の不治の病についてだ。長くない自分の命を儚み、無関係な命を奪ってしまったのだ。
「そんな言い訳、絶対に嘘だわ」
法廷に立つだけでもブーイングが飛ぶ。だが、裁判長は被告人をさとすように優しい声音で言った。
「『生きたい』と願う心があれば、病魔に負けず、罪のない人の命を奪うことはなかったのではないですか」
「あなたの人生は、あなたの心の持ちようで変わるんです」
被告人は涙を流しながら何度もうなずいた。そして裁判長は判決文を読み上げた。
「主文 被告人を死刑と処す」
第一審で死刑を宣告された被告人が、高等裁判所に控訴し、再び裁判が始まった。だが、裁判の途中、被告人は病で倒れて危篤状態になった。被告人には緊急手術が施された。そして一年後、回復して再び法廷に戻った被告人は「被告人を死刑と処す」と伝えられた。それを聞いた被告人は問う。「なぜ一度私を助けたのですか」と。すると、裁判官は言った。「三人の尊い命を奪ったあなたは、二回死んでも罪を償えるものではないからです」





