消えゆくヒト
「もー!卒業式の日ぐらい忘れ物しないでよ!」
「ごめんごめん、ちょーっと待っててよー」
桜の花散る3月1日、私たちは今日高校を卒業する。
「帰る前に忘れてるの気づけてよかったー!」
そう言って誰もいない教室に飛び込むと、窓際の1番前の席に座っている、美しい黒髪。
「卒業式の日に忘れ物?」
ちょっと笑いを含んだ声で聞かれる。
「そう、まさか卒業証書を忘れるとは思わなかったー」
廊下側から2列目、後ろから3席目の机から、可哀想に忘れられた証書を救出する。
「まだ帰らないの?」
一人置いてくのは気まずくて声をかけたものの
「うん、帰れないの」
寂しそうな返事。
「でも、みんなの幸せを願ってるよ」
ふわりと美しい髪が、桜吹雪とともに空に舞う。
そうして彼女は窓から落ちていった。
「ねぇまだー?」
廊下からミキが声を掛けてくる。
「ほらユキ、もう帰ろー?
…えっ!?
ちょ、どーしたの?寂しくなっちゃったの!?」
目からボロボロと流れる水滴は、なぜだか止まらないし胸も苦しい。
今さら卒業への感傷か、それとも別離へのはなむけか。
もらい泣きして鼻水まで垂らしているミキを笑って。
二人で汚い顔のまま、桜並木を並んで歩いた。
手には卒業証書。





