消えゆくヒト

ささきささき2022年3月10日

「もー!卒業式の日ぐらい忘れ物しないでよ!」

「ごめんごめん、ちょーっと待っててよー」


桜の花散る3月1日、私たちは今日高校を卒業する。


「帰る前に忘れてるの気づけてよかったー!」

そう言って誰もいない教室に飛び込むと、窓際の1番前の席に座っている、美しい黒髪。


「卒業式の日に忘れ物?」

ちょっと笑いを含んだ声で聞かれる。


「そう、まさか卒業証書を忘れるとは思わなかったー」

廊下側から2列目、後ろから3席目の机から、可哀想に忘れられた証書を救出する。


「まだ帰らないの?」

一人置いてくのは気まずくて声をかけたものの


「うん、帰れないの」

寂しそうな返事。


「でも、みんなの幸せを願ってるよ」


ふわりと美しい髪が、桜吹雪とともに空に舞う。


そうして彼女は窓から落ちていった。




「ねぇまだー?」


廊下からミキが声を掛けてくる。


「ほらユキ、もう帰ろー?


…えっ!?

ちょ、どーしたの?寂しくなっちゃったの!?」


目からボロボロと流れる水滴は、なぜだか止まらないし胸も苦しい。


今さら卒業への感傷か、それとも別離へのはなむけか。




もらい泣きして鼻水まで垂らしているミキを笑って。


二人で汚い顔のまま、桜並木を並んで歩いた。


手には卒業証書。


ささき
ささき