春

よくありきたりな表現ではあるけれど。
窓の外を見ると、桜がヒラヒラ舞い落ちる。
陽がポカポカと陽気な風を運んで、最近では小鳥達の囀りなんかで目を覚ますことも増えた。
道を歩く人達の顔には来春の喜びと笑顔がこぼれ、感染するように幸せが溢れている。
自分のしわくちゃな手のひらを見つめる。
自分が若かった頃って言うのを思い出す。
今となっては昔話のような、でも本当にあった過去の記憶。
戦時中の緊張感と恐怖や不安。
戦後に突きつけられた、衣食住も満足にない世界で、飢えや寒さに必死で抗い、生きようとした日々。
亡くした妹と守れなかった子の命。
そんな記憶がまるで夢物語だったかのような、明るく幸せに溢れた今の世界。
瞼を閉じると思い出さずにはいられない。
決して幸せだったとは言えない記憶。
それはけっして遠い昔のことでも、遠い未来の話でもないのだと、
今を生きる者たちに伝わっているのだろうか。
世界が幸せに染まることで、この記憶が薄れていくことは自然の摂理なのだろう。
ならば、老いた私が出来ることは
「おばーちゃーん!遊びに来たよーっ」
この幸せの尊さを次世代に語り継いでいくことだけなのだろう。
この争いの絶えない、幸せな世界で。




