ショートショート」の検索結果 (17件)

 数日前のことだ。いつものように俺のところに来て、器用に繕い物をしながら小娘は言った。

「ねえ、私、今度殺されるの」

 殺される、の意味が分からなくて、俺は少し考えた。それで、初めて小娘と話した時のことを思い出して、勢いよく小娘の方を見た。

 小娘は、いつも通りの、何も楽しくない、と言わんばかりの表情で続けた。

「多分、もうこうしてお兄さんと話せることもないと思うから」

「なんで」

「なんで、って。だって、もうずっと前から決まっていたことだから」

 私はここから逃げる手段なんて無いし。続けたその声には、悲しみも怒りも無くて、ただ淡々と事実を告げるだけだった。

「ねえ、だから、お兄さん」

 そっと囁かれるように言...

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 こいつは、自分が生贄にされるって、もう気付いているんだとその時分かった。たかが十のガキなのに。

「それに、私は余所者だから。ここで信じてる神様なんて、どうでもいいの」

なんでもないように続けたそいつは、俺の目を見て言った。

「お兄さんも、私と同じ、冷めた目をしてるから分かった」

「……何言ってんだか、この小娘が」

 俺は、なんでもないようにそう言って突き放したつもりだった。けれどそれ以降、小娘は何かと理由を付けて俺のところに来ては、「お兄さん」と俺を呼ぶようになった。勘弁してくれ、俺まで村の連中に変な目で見られるだろ、と思ったけれど、長年視界の端で捉え続けたそいつが自分から俺のところに来るのは気分が良...

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 今年は去年よりも米も野菜も取れない、どうしたもんか、なんて、やっと大人になった同世代の連中と話していたら、そのうちの一人が言った。水神様がお怒りなんだ、と。俺は、それに内心うんざりしながら相槌を打った。

 俺は、神だなんて、馬鹿らしいと思っていた。何かきっかけがあったわけでもないけれど、でも物心ついた頃にはそう思っていたから、つまるところ俺は根っからの捻くれ者なんだろう。けれど、それについて口にすることはしなかった。そんなことをすれば、俺が村八分にされるのは目に見えていたから。けれど自分に噓をついて同意を返すこともできなくて、毎回曖昧な笑みを浮かべて誤魔化していた。



 それを、あいつは見抜いてい...

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 大人達が話していたのは、その家の今後の扱いについてだった。女は体が弱い、自分で食い扶持を稼ぐこともできないんだから、さっさと追い出してしまったらどうだ、とか。娘の方はどうする、とか。それを聞いた俺は、あああいつら追い出されるのか、なんて他人事みたいに思っていたっけ。

 けれど、その後話の流れが変わったのが分かった。

 だが、あの器量の良い女を手放すのは惜しくないか、と一人が言った。

 旦那が死んだんだ、好きにしてしまってもいいだろう、と一人が言った。

 ならば、娘はどうする、育てて同じように使うか、と一人が言った。

 娘は、ありゃあ目がいかん。あの男そっくりだ、と一人が言った。

 なら、そのうち水神様の...

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 その家は、余所者の家、とよく言われている家だった。なんでも、一組の男女が、俺が生まれてくる少し前にこの村にやって来たらしい。男の方は体格が良く力仕事が得意で、けれど力加減がへたくそ。そして女の方はどうにも体が強いほうではないらしく、けれど美人で手先が器用。そんな対照的な二人だった。今思えば、当時は村に人が少なかったから、少しでも労働力が欲しくて迎え入れたんだろう、と想像がつく。

 そうして、その男女は表面上はこの村の一員として過ごすことになった。

 そんな家に、数年前に娘が生まれた。目つきは父親に、それ以外は母親によく似た顔の、あまり表情の変わらないその子供は、両親と同じく表面上はこの村の一員と...

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 学校が終わって、家に帰る途中。げこう班のみんなとはもうとっくに分かれたあとで、わたしの家まではもう少し。そんな場所に、その道はあった。



 近道にはなるけど、すごく急な道。でも、青くて小さくてかわいいお花や、吸うと甘いピンクのお花が咲いていて、春に歩くのがすごく楽しくてお気に入りの道。……ただ、この間は蛇が居てびっくりしちゃった。 



 あと、すごく景色がきれいなんだ。少し前までは山の上の方が白くなっていてきれいだったし、秋はあかくなっていてきれいだった。白いのは雪が積もっているからで、赤くなるのはコウヨウって言うんだって。こんなことを知ってるわたしって、少し大人なんじゃない?



 草の上にランドセルを...

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 年の割に大人びた様子で淡々と告げた生意気な小娘は、笑顔で崖下へ飛び降りていった。





 そいつのことをきちんと認知したのは、俺が十の時だった。当時はまだガキだったから、大人達の話に混じれなくて悔しかったのを覚えている。その悔しさからか、俺はよく夜に大人達が酒を飲みながら話す声を盗み聞きすることが多かった。娯楽の少ないこの村の中で、それは俺の数少ない楽しみの一つでもあった。今思い返しても捻くれたガキだと思う。



 俺は、その日もこっそりと大人達の話に耳をそばだてていた。その日の話題は、とある家についてだった。



 その家は、余所者の家、とよく言われている家だった。なんでも、一組の男女が、俺が生まれてくる少し...

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 はぁ、はぁと息が切れる。それに、ああまだまだ訓練不足だな、走り込みを増やした方がいいかもしれないなと考えた。

 少しずつ走るスピードを緩めていって、最後には壁に寄りかかる形になって足を止める。ふう、と息を吐いて、ずるずる地面へしゃがみこんだ。



 あいつが今日、夜番明けだとたまたま聞いて。久しぶりに会えるかな、とか、夜番明けなら好物でも差し入れてやろうかな、とか。

 浮ついた気持ちであいつを探したら、なにやら綺麗なお姉さんと腕を組んでいた。あれを見たときの、私の気持ちと言ったら。



 ……きっと、あいつはそんなの欠片もわかっていないのだろうけど。



「なんで変なとこばっかり鋭くて、大事な所は鈍いんだ、あの馬...

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 くるりと自宅の方へ向き直って、ぼんやり考えながら帰路に就く。

 あいつ、結局何に怒ってたのか分かんなかったな、とか。あいつがああやって声を荒げるのは珍しいことだな、とか。

 そんなことを眠気の大分回った頭で考えていると、気付けばもう自室の目の前だった。ガチャリと扉を開けて、抱えていた荷物を机に置いてベッドに転がる。



 そう言えば、まだあの布袋の中身確認してなかったな。思って、ベッドから手だけ伸ばして机の上の布袋に手を伸ばす。

 紐で縛られた口を開けば、中には俺の好物であるりんごが二つ入っていた。それと一緒に、紙切れが一つ。瞼が落ちかける中、その紙に書いてある文字を読んだ。



『きちんと休養を取ること。

訓...

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「ちょ、お前!!」



 走り去るその背中に声を投げるも、同期は振り返らなかった。



「……なんなんだよ、一体」



 思わず独り言ちて、ぼりぼりと頭を掻く。まあ、あいつの言う通り明日の午後から訓練がある。明日のためにも早く帰って、夜番明けの体を休ませるべきだ。……あいつの言う通りなのは、ちょっと癪だけど。

 ……ていうか、そう。俺、今夜番明けなんだよな。

 自覚した途端眠気が襲ってきて、ふぁあと欠伸が出た。

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 考えるのが面倒になって、直接そうぶつければ同期が虚を突かれたような顔を作った。

 こいつのこんな顔見るのは、なんだか久しぶりだ。普段の大人びた雰囲気が抜けて、同世代であることが分かるようになるこの表情。そもそも、隊が分かれてからは顔を合わせることも減ったんだったか。今更ながら、こいつとこうして話すのはいつぶりだろうと思った。



「……別に、怒ってるわけじゃ」

「いや、怒ってるだろ」

「……」



 追求してみれば、同期は口を閉じて黙りこくってしまった。続けて視線が逸らされて、地面へと落とされれる。



「……私が、あんた見つけたときどんな気持ちになったと思ってんのよ」



 普段、はっきりものを言うこいつにしては随分と...

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「おい、誰が優しいだ。体術訓練で何度お前に吹っ飛ばされたことか」

「それはあんたが弱いからでしょ」



 いつも通りの仏頂面に戻った同期が、いつも通りの口調で俺に向かって言った。それに、ピキリと青筋が立つのが分かる。



「はぁ?つーかなんだよさっきの口調と顔。キッショ」

「一応あれも一般市民だから。それに、あの手合いに穏便に帰ってもらうにはこれが一番と判断しただけよ」



 いつも通りの、お高くとまったような口調と仕草。それにどこか安心したような気持になりながらも、同時に腹が立った。



「へーえ?それで俺を悪者にしたわけか」

「そもそもあんたが無視するなり振り払うなりすれば私が手出しする必要は無かったのよ。あ、それとも...

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 同期は俺の方には目もくれず、相変わらずの余所行きの顔のままで言った。そして、再び地面に転がっていたままだった女へ手を伸ばす。

 女は、不服そうな顔を作って同期の手を取った。立ち上がってから、これ見よがしに服の裾をパンパンと叩く。

 目線が並んだ女二人は、片方は相手を睨んで、片方は相手へ微笑んでいた。それに、どうしてかうすら寒いものを感じて思わず後退する。なんだあれ、戦場よりおっかない空気があそこだけ流れてないか。



「……助かったわよ」

「ええ、今後もどうかお気を付けください。軍は、私のように優しい人ばかりではありませんから」



 女は、同期の言葉に悔しそうに顔を歪めて足早に街の裏通りに駆けて行った。

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 女も俺と同じように思ったようで、怪訝そうな顔をして「はぁ?」と同期を見た。……しかし、女って怖えな。さっきはあんな猫撫で声だったのに。すっかり蚊帳の外になってしまった俺が二人のやり取りを傍観していれば、同期がにっこりと微笑みを作って口を開いた。うわ、余所行きの面だよあれ。気色わりい。



「貴女、恐らく先の戦に乗じてこの国に入ってきた方でしょう?そんな貴女が自分からこの国の兵士に手を出すわけがないじゃないですか、ねえ?」



 同期の言った内容に、ぎょっとして女を見る。先の戦に乗じて、ということは、隣国である貧しいあの国から違法入国してきたということだ。確かに、この間の会議で違法入国者が多くいることを上...

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 ほぼ反射で頭を下げた。

 俺の動きに付いてこれなかった女が、振り払われる形になって地面に転がる。それを視界の端で捉えるのと同時に、下げた頭の上で空を切る音が聞こえた。



 低い姿勢のまま、その攻撃を仕掛けてきたやつを見据えるべく振り返る。そこには、予想通り俺の良く知る同期の女が、蹴りの姿勢を保ったまま居た。



「おい、どういうつもりだ?」



 さっき女に対して作ったそれよりも、ずっと低い声が出た。自分でそれに驚きながら、低い位置から同期を睨む。



「なに、絡まれていたみたいだったから助けに入っただけだよ」



 言いつつ、同期が地面に転がったままだった女に向かって手を伸ばす。「大丈夫ですか、お嬢さん」なんて気障った...

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「うふふ、つれないのねえ。でも、そういうところも素敵よ?」



 まるで暖簾に腕押しだ。無理やり振り払ってもいいが、それで怪我でもされたら加害者はこっちになる。ましてや女の言う通り、俺は兵士だ、下手すりゃ号外のネタである。

 はあ、とまたため息を一つ。



「俺はお前みたいな軽い女は嫌いなんだ」



 これでどっか行ってくれねえかなと、厳しい目つきで女を睨んだ。どうだ、夜番明けってこともあって中々迫力あると思うんだが。

 しかし、女は「きゃっ、こわーい」なんて言って体をくねらせただけだった。なんなんだこいつ……。



 意識せずとも顔が険しくなるのが分かる。そんなに俺は怖くないのか、確かに軍の中じゃまだまだ若造と呼ばれる...

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 夜の見回りが終わって、今日の当番のやつに変わってから歩く朝の町。普段は心地よく感じる朝日が、澄んだ空気が、夜番が明けた後だけは酷く鬱陶しく感じる。

朝日に眼を眇めながら自宅へ向かって町を歩く中、唐突に背後から声を掛けられた。



「ねえ、お兄さん?これから、私とどうかしら?」



 もう朝だぞ。内心でそう毒づいて、向こうにとって色好くない返事を返すために足を止める。……いや、そもそも俺がこの女の相手してやる義理は無くないか?こちとら夜番開けだぞ俺はさっさと部屋に帰って寝たいんだ。

 振り返る寸前にそう思って足を動かそうとすると、するりと俺の腕に女が絡みついた。それに驚き半分、怒り半分で女の方へ顔を向ける。一...

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